■ カムフラージュ4


【side 奈々】




家に入るともう明かりは消えていた。

玄関を開けて正面にある自分の部屋に隠れるように入った。

まだ帰って来ていない。

土曜日だから明日休みだからもしかしたら今日は帰って来ないかもしれない。

それならそれでいい、むしろそうしてほしい。

とにかく今の内にお風呂に入らなきゃ…


そう思ってあたしは着替えを片手に部屋を抜けて、廊下の左側にある洗面所に入った。

刻一刻と迫る時間を最大限に気にしながら、あたしは急いでお風呂から上がった。

こっそりと抜け出して部屋に戻るとホッと小さな溜息が零れる。

ふとベッドの上の携帯ランプが静かに着信を知らせていて、あたしはこんな時間に誰?って思いながらも開くとさっき別れたばかりの、さっき登録したばかりの哲也くんの名前が出ていた。

ベッドの上に座って携帯を手にあたしは揺れる画面のその番号に、通話ボタンを押した。

ゆきみに何かあったのかな?

そう思ったあたしの耳元に低い声が届いた。


『もしもし…ゆきみに何かあったの?』

「…あー…俺…」


聞こえてきた声は哲也くんよりも低くて、あたしはこの声を聞いた事がある。

途端に心臓がトクン…トクン…と脈打って。


『……え』

「…タカヒロ」


ですよね…

何でか胸の奥がギュって痛かった。


『これ、哲也くんの番号じゃないの?』

「ちげぇ、俺の」


やられた…気がした。

でもどういう意図で哲也くんがタカヒロの番号を渡したのかなんて、あたしには分からない。

だけど意味のないことなんて、哲也くんはしないんじゃないかって思う。

それなのに優しさに慣れていないあたしは、この状況がタカヒロの優しさだって分かるのにありのままの気持ちを言葉にすることすら、できそうもない。

だから――――


『そうなんだ』


そう言うだけ。


「あぁ。今どこ?」


そんな事はどうでもよかったらしいタカヒロは、すぐに話題を変えた。


『家だけど…』

「そっか、親は?」

『…お母さんは寝てる。親父はまだ帰って来てない。土曜日だから遅いと思う』


壁に掛かった真ん丸の時計は0時前を指している。


「まだ安心できねぇって訳だ」



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