■ one4
『そーいう事って…』
去って行く後ろ姿にボソッと呟いたらやっと顔を上げた美人。
でもその瞳は悲しみも、諦めをも混ぜたようで、生きている目とは別物のように思えた。
『慣れてるから。…でも、助けてくれて有難う』
美人ちゃんがそう呟くのと同時、昼休み終了の予鈴チャイムが鳴り響いた。
それでもわたし達はその場から動こうとしないで、何か言いたげに見える彼女をわたしもほったらかしには出来なくて…
『なんでこんなのに慣れてんの?』
わたしはわざと持っていたチョコクロワッサンにかぶりついた。
『………』
話す事をためらっているのか、彼女は何も言わずに視線を泳がせていて、時折口を開けてこっちを向くけど喋り出せなくて、ちょっと苦しそうにも見える。
哲也さえいればいいってわたしの気持ちは変わらない。
でも、哲也以外で興味を持ったのは初めてかもしれない。
こんな風に¨リンチに慣れた¨理由を聞きたいと思ったのは初めてだろう。
わたしはポケットから小さな飴を出して彼女に手渡した。
『好き?苺』
『あ、うん。有難う』
ペロッと口に入れて笑うと、彼女もわたしに続いて飴を舐めた。
『どうして慣れてるの?』
そうしてもう一度聞いてみた。
『中学の時、一番仲良かった子の好きな人があたしの事好きだって噂になって…あたし何度も断ったけど、あたしがそそのかしたみたいに言われて、みんなが友達の肩もって…ずっと一人だったから…さっきみたいに囲まれたり、閉じ込められたり、そんな事よくあったから…だから誰も行かない圏外の高校受けたの。それなのに、またなんだ…って』
初めてまともに聞いたその声は、女のわたしから見ても可愛いらしくて、やっぱり第一印象は消えない位に綺麗な子だった。
なんてちょっと見とれてたなんて言う訳もなく、わたしは苦笑いで彼女を見返した。
『だから友達っていうか、女なんて男が絡むとみんなそんなもんだって…誰もあたしの話しも聞いてくれなかったし、みんな見て見ぬフリ……だから慣れっこ!…でも、助けてくれたのはあなたが初めて。だから…嬉しかった…』
感情が言葉に重なって、大きな瞳からポロッと涙が零れた。