■ 恋心8


【side 奈々】



それからあたし達は、当たり前にタカヒロ達がいるVIP部屋には一歩も入る事なく青倉庫の外で時を過ごした。

ケンチの傷はまだ青々としていて、それでも青倉庫の中や、周りをバイクでグルグル回って遊んでいた。

ここにいるとゆきみがいて直人やケンチもいて、余計な事を考えなくてすむ。

ゆきみのいる世界は一般的に常識外れな所もあるけれど、今までいたあたしの世界よりは遥かに幸せだと思えた。


そんな幸せを壊す夜の闇…

少しずつ青倉庫の人達がいなくなっていく。

辺りはもう真っ暗な闇に包まれている。

携帯のデジタル時計は22時を過ぎていた。

広大な空を見上げるあたしは、少しづつその恐怖が近づいていて…


どうしようもなく不安になる。

出来るのなら、ずっとここにいたい。

何もかもを忘れてここでゆきみと一緒にいたい。

それが出来たならどんなにか、幸せだろう。

でも、現実はそんな甘いもんじゃなくて。

聞こえたのは、「お疲れ様っす」ってチームメイトの声。

あたし達の前に姿を表したのはタカヒロと彼女で、やっぱりイチャイチャしながら歩いている。

当たり前に彼女を抱きしめて歩くタカヒロは、あたしに一切視線を移す事なく目の前をスッと歩いて行く。

その空気は冷たくて。

昨日あたしをここに連れて来てくれたタカヒロの面影は欠片もない。

これが本来のタカヒロの姿なんだろうか?

暴走族チーム【one】の総長の姿は、こっちが本物なんだ…って見せつけられたようだった。


どうしてか、あたしの心はチクンと痛くて。

あたしを心配して、笑いかけてくれたタカヒロが、頭に張り付いて離れないんだ。

颯爽と歩いて行くタカヒロからあたしはどうしても目が離せなくて…

ほんの一瞬でもいいから、こっちを向いて欲しい…

そんな想いを抱きながら―――


でも、それすら叶うことなく通り過ぎてしまって。

本気でタカヒロがあたしに興味があるなんて思っていた訳じゃないけど、少なく共あたしの異変に気づいてくれたのはタカヒロだけだったから…

この人だったらもしかしてあたしを助けてくれるんじゃないかって、そんな淡い期待を少しでも抱いた自分が悲しく思えた。

そんな都合よく事が運ぶ訳ないって分かっているのに…


馬鹿だな、本当…



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