■ 恋心6


「お前、なんかあった?」

『なんかって?』


倉庫に着いて顔を見るなりゆきみに近づいた哲也くんは、ギャラリー関係なしでゆきみを抱きしめちゃいそうな程に腰に腕を回して顔を覗き込んだ。

その顔はちょっとだけ心配顔で。

哲也くんにとってゆきみの存在ってやっぱり大きいんじゃないかってあたしは思う訳で。

顔色、表情一つでゆきみの状態を見抜く哲也くんを内心すごいと思った。

同時に、そんな関係にいる二人を…ほんの少し羨ましく思う。

青倉庫の外に膝を抱えて座ってその光景を見ていたあたしまで、どうしてか胸が熱くなってしまう。


「こっち来るまでに何かあった?」

『ないよ。どうして?』


ジーっとゆきみを見つめてから、諦めたように哲也くんは離れた。


「ないならいい」


少しだけ納得のいかないような、そんな複雑な表情を浮かべながらも、ゆきみの意見を受け入れる哲也くんは、もしかしたらゆきみの隠し事をちゃんと分かっているんじゃないかって。

慣れた口調だったゆきみの『哲也には言わないで』って言葉に、哲也くんもそうやってゆきみが狙われる事を本当は知っているんだって。

でもそれを隠すゆきみの気持ちも知っていて…

それってやっぱり¨愛¨なんじゃないのかな?

そう思ってゆきみに視線を送ったら、ゆきみも又複雑そうな顔をしていて。


『哲也、心配だったら一緒に居て…わたし哲也に心配かけるくらいなら一緒に居て…』


ギャラリーのあたしのがドキドキしちゃうような言葉をゆきみは言っていて、あたしの隣にいた直人も同じような顔だと思ってチラっと見たけど…――――全然違かった。


それは、言葉を発したいのを我慢してるような悔しそうな表情で…

直人は今まで何度もゆきみを守ってきていたんだってそうとれた。

だから哲也くんに心配かけまいとしてるゆきみが痛々しいって…

勝手にあたしはそう解釈した。

でも…


「…っきしょぅ…」


それは、隣にいるあたしにしか聞こえない程の小さな直人の声で。


『直人?』

「…あ、すいません」


独り言だったみたい直人の言葉を聞いてしまったあたしに、ちょっと困ったように苦笑いを返す直人。

そこに、直人のどんな気持ちが隠れているのかなんて…

知るはずもないんだ。



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