■ 恋心5
【side 奈々】
それは目にも止まらぬ早業だったんだ。
倒れ込むように後部座席に乗り込んだゆきみと直人は、乱れた呼吸を大きく整えている。
助手席から振り返って二人を見ていると、あたしに気づいたゆきみが苦笑いで『ごめんね心配かけて』そう言った。
『大丈夫?あたし一緒に行けばよかった』
『奈々のせいじゃないよ?気にしないで、よくあるから。…哲也には言わないで、心配するから』
切なげなゆきみの声に、あたしは小さく頷いた。
納得も何もないけども、あたしにはそんな権利はないって思ったから。
好きな人には心配かけたくないって、その想いは分からなくもないから…
きっと誰しも恋をしたらそうなんだと思う。
あたしもきっとそうなるって…
思いたい。