■ 恋心3
【side ゆきみ】
お店に入ったわたしはカウンターにいた奴らを見て慌てて奥に移動した。
店員に文句つけてるあいつ等は見たことある奴らで、何度か捕まりそうになった事があった。
それはわたしを口実に哲也を呼び出して仕返しするって事で。
あの顔の傷を見るならば、あいつ等は又哲也にやられたんだって。
今わたしがあいつ等に見つかりでもしたら、哲也に迷惑をかける事は勿論、車にいる奈々に恐怖を植え付けてしまうかもしれない。
そんな事、許されない。
やばい…やばい…やばい…
直人が来る前に何とか逃げなきゃ。
…とはいえ元々鈍臭いわたしはすぐに捕まる訳で。
「おい待てよ」
狭いお店で追いかけっこする訳にも行かず低い声に振り返ったら腕をググっと捕まれた。
『………』
目が合ったそいつ等はわたしを見てニヤっていやらしい笑いを飛ばした。
それは、
「哲也呼んでくれたら離してやるよ」
そう続く訳で。
こうやって喧嘩の時に絶対に手加減をしない哲也に少しでも仕返しをしようと、どこで調べたのかわたしを捕まえる奴は少なくない。
見た事もないようなヤンキーは確実にわたしを使って哲也を呼び出そうとする。
哲也の好きなノリに手を出せば、チーム全体が動く事になりかねないからって手っ取り早く呼び出すにはわたしって訳で。
そうそう捕まってたまるか!!
残念な事にこんな状況にもだいぶ慣れてしまっていたわたしは…
『はい?』
とりあえず第一声は知らないふり。
何言ってんのこの人…
そういう不審な目をそいつ等に向けた。
それはほんの一瞬ですぐに腕を引っ張られて顎に手を添えられた。
「「いい度胸してんじゃねぇか」」
被った声はわたしの腕を捕んでるそいつ等と、後ろから聞こえた直人の声で。
わたしはまた直人に借りを作ってしまうんだと瞬時に思った。
ゆっくりと直人の方を振り返るそいつ等。
「離せよ、そいつ」
直人はクイッと顎でわたしを指す。
視線は哲也に似て、決して弱さを感じさせない直人。
顔つきがいつもと全然違う直人を、わたしは少し怖いとも思えた。
それでも確実にわたしを守ってくれるだろう直人。
だてに暴走族の一員じゃない。