■ 恋心2
【side 奈々】
一旦TSUTAYAに寄って貰ったあたし達。
『ちょっと待ってて、返すだけだから』
そう言って後部座席から出て行くゆきみ。
お店に入ってからすでに三分がたっている。
キョロキョロと車の中から辺りを見回してもゆきみの気配はない。
『遅くないですか?』
ゆきみがいないだけでそれはもう不安になるというのに。
普段こんな…見かけがちょっと怖めの人達と行動を共にする事のないあたしは、この人達を信用してない訳じゃないけど完璧に信じきっている訳でもない。
「あ、敬語いりません。直人って呼んで下さいね」
そんなあたしの考えを分かっているかのように、振り返ってニッコリ笑う直人…はよく見るととっても優しい顔だった。
『…うん。あたしちょっと見てきま…、見てくる』
ドアに手をかけて開けようとした瞬間、前から直人の腕が伸びてきてあたしを止めた。
吃驚して顔を上げると、その吃驚を越える位に眉間にシワを寄せた直人の顔があたしの動き全てを止めた。
それはあたしやゆきみを見る目とはとうていかけ離れていて。
言うなれば、これが本来の直人の顔なの?って。
そう思うとやっぱりこんな状況に慣れてもいないあたしは怖くなった。
でもそこには気づいていないらしい直人は、チッと舌打ちをすると視線を店内に移す。
それからゆっくりとあたしの方を見て…
「俺が行きます、奈々さんこっから絶対ぇ出ないで下さい…」
『え?どうし…
バタンッ!
あたしの質問さえ遮って出て行った直人は、怖いくらい戦闘態勢に見えた。
同時に運転手さんによって車がカチャってロックされてしまったあたし。
ななな、なに?
ゆきみどーしちゃったの?
「すみません、助手席に移動してもらっていいですか?」
『え?』
ずっと黙っていた運転手さんが一言呟いた。
振り返った瞳はやっぱりよく見ると優しかったから『はい』って答えてあたしは車の中から助手席に移動した。
それでも二人の姿が見えないから、不安は消える事もなく、あたしはTSUTAYAの入口に向けた視線を決して逸らさなかった。