■ 隠し事4
言われた通りに真っ直ぐ行った左側の突き当たりに、ゆきみとケンチくんと直人くんがいた。
もうケンチくんの手当は終わっていて、ソファーに寝そべっている。
『ゆきみ』
『奈々っ!?』
あたしが近づくと、すぐに「おいで」って手をあげてくれて。
ゆきみが座っていたソファーの端に腰掛けた。
隣で寝そべっているケンチくんは、哲也くんよりも怪我が酷かった。
哲也くんがいかに相手をよく見ていたのかが分かる。
目の上が青く腫れていて、あきらかに開いていない視界に苛つきを見せるケンチくんはその場で地団駄を始めた。
「くそっ、マジ見えずれー」
そんなケンチくんの言葉なんて慣れっこって感じで、何の興味も示さないゆきみが、あたしの格好を上から下まで見て動きが止まった。
『奈々それ、タカヒロ?』
『え?』
あたしの着ているジャケットを指差したまま、ゆきみが少し吃驚したような目であたしを見ている。
『うん、絶対脱ぐなって』
キョトンと答えたあたしにゆきみはニッコリ笑った。
『タカヒロは奈々が気に入ったみたい』
そして、謎の言葉を続けた。
気に入ったみたい?
あたしを?
「…マジだ」
「すげぇっすね、奈々さん」
みんながみんな、あたしを見ていて、その瞳はちょっと異様だった。
このジャケットが一体どういう意味を示すのか、全く知りもしないあたしはただみんなを見返す事しか出来なくて。
確かにこれはタカヒロのジャケットであろうけど、でもそれがゆきみの言う『気に入った』行為とは結び付かない訳で…
「ノリさんより似合ってんじゃねぇ?」
『ケンチ!』
「あっ、悪りぃ…」
軽々しくぼやいたケンチくんの言葉に、ゆきみの大きめの声が遮って。
苦笑いを返すケンチくんに、無言の直人くん。
え、なに?
この微妙な雰囲気…
『え、なに?』
たまらず聞いたあたしに、ゆきみの後ろにいた直人くんがゆっくりと口を開いたんだ。
「気に入った女に自分の上着を着せるのは暗黙の了解なんですよ。上の方も下の奴らも、自分が気に入った女を守る為に自分の服着せたりするんです、俺達」
その説明は物凄く分かりやすくて、何だか段々恥ずかしくなっていくみたい。
それはみんなの視線をも集めていて。