■ 隠し事3
『何でもないの』
それでも弱虫なあたしは、そう答えるしか出来ない。
バレたらきっと殺される…
「何でもないようには見えねぇけど」
ほんの少しだけタカヒロの口調が強まった。
それでもあたしは左右に首を振るだけ。
「どうしてあんな時間に外にいたの?」
『………』
「家にいたくねぇってことだよな?」
『………』
「親か」
最後は冷たく吐き出したタカヒロの溜息がこの部屋に響いた。
何も答える気がないあたしはもう視線を上げる事も出来ずにいて。
「奈々ちゃんてさぁ、…結構頑固だな」
えっ?
声色が変わったタカヒロに、クイッと顔を上げたあたしは、ニッコリと微笑まれた。
もう、質問しないよってそう顔が言ってるようであたしは少しホッとした。
息苦しかった呼吸が少し整ってきて。
胸元から手を離したらタカヒロが小さく溜息をついた気がした。
「ゆきみちゃん、この部屋出て真っ直ぐ行った左側の突き当たりにいると思う」
ドアを指差してそう教えてくれた。
「寒いからこれ着て行って。絶対脱ぐなよ」
寝ている間もかかっていたんだろう、ジャケットをあたしに着させてくれた。
そこにはoneってチーム名と、TAKAHIROって名前が刺繍されていて、何だかちょっと恥ずかしい気持ちになるけど…。
それでも頷くあたしにタカヒロは優しく笑った。
「誰も何も言わねぇーから安心しろよ。それから、今日はゆきみちゃん家に泊めて貰って。いいよな、哲也?」
そう言って横向きソファーで寝ていると思う哲也くんに声をかける。
「あぁ」
一言そう返ってきた。
お、起きてたの?
自分でも分かる位の引き攣り顔で、あたしは哲也くんに視線を向けたけど、こっちを振り返る事はない。
同じ体勢のまま、目も閉じたままで。
とにかくこの部屋から出たかったあたし。
『分かった』
そう答えてこの部屋から出て行った。