■ 隠し事2
目の前の田崎タカヒロは吸い込まれそうな強い視線をあたしに向けていて。
「奈々ちゃん途中で寝ちゃって」
静かに煙草の煙を吐き出してそう言った。
ここんとこずっとまともに眠れていなかったあたしは、高級車のシートの心地良さと、あの家じゃないって事に安心して眠ってしまったんだろう。
『あの、あたしゆきみの所行ってもいい?』
この部屋には田崎タカヒロと哲也くんしかいなくて。
ケンチくんの所に行っているらしいゆきみもいない。
そんな所にぬけぬけと寝ていた自分。
ここは、あたしがいる場所じゃないって思う。
「タカヒロでいいから」
えっ?
質問とは全く関係のない答えが返ってきたあたしは、ちょっと困惑しつつも素直に頭を下げる。
『あの、ゆきみ…
「その手ぇ…」
再び部屋を出ていいか聞こうとしたあたしの言葉を遮るタカヒロ。
見つめているのはあたしの手。
「さっきのゆきみちゃんの質問に、答えてくれる?」
低い声に、ドクンと心臓が脈打った。
言えない…
喉が渇いて吐きそうなくらいに呼吸が苦しくて、あたしは胸に手を当てる。
苦しい、苦しいよっ!
「その傷、誰にやられた?」
『……』
「答えられねぇこと?」
尋問されてるみたいな、でも瞳は優しくて、こんな風にあたしに気づいてくれた人は生まれて初めてだった。
だから動揺したんだ。
今まで誰もあたしになんか気づくことなくきたから、それが当たり前で、誰もあたしを助けてくれる人なんていなかったから。
あたしなんて存在する意味がないってそう思っていたから。
それなのにどうして…
どうしてこの人は一目で気づくんだろう?
暴走族の総長だから、それなりに人を見る目はもっているのかな…
真っ直ぐ見つめる瞳が怖い位綺麗で、ほんの一瞬見とれてる自分がいたんだ。