■ 皺寄せ4


『哲也?…てっちゃん?てっちゃっ…』


痣がいっぱいで口許が切れて腫れていて…白いヘアバンドは血で赤く染まっていた。

ケンチも哲也と同様、痣と血に塗れている。

奈々の物と見られるハンカチは血で真っ赤に染まっていて、どうする事も出来ずに立ち往生する奈々が側にいた。


『ゆきみ、早く病院に…』


奈々の声は重々聞こえていたけれど、わたしは哲也から離れる事が出来ない。

掴んだ腕にいっそう力を込めるだけ。

後ろでは、タカヒロが電話で車をもう一台呼んでいて。

電話の相手はきっと直人だって。


『ゆきみ…しっかり…』


そう言う奈々の声も微かに震えていて。

それがこの雨のせいなのか、

それともこの二人の怪我のせいなのか、

はたまたタカヒロを恐れているのか、わたしには分からない。


『大丈夫って言った…』

「え?」

『タカヒロ大丈夫って言ったのに何でっ?何でいつも哲也なのっ?!どうして哲也を行かせるのっ?どうして哲也を止めないのっ?!』


たまりにたまった感情が、悔し涙と一緒に口から飛び出した。

静まり帰った民家に近所迷惑並のわたしの声が響く。

同時に哲也に触れていたわたしの腕に、哲也の腕の温もりが重なって。

えっ?

視線を向けたわたしに、まだ目を閉じたままの哲也の口がほんの少し動いていて。


「…泣いてんなよ…バーカ…」


呼吸を整えながら哲也がそう呟いた。


…は?

意識あるの…

え?

聞いてたの?


目は閉じたままだけどその口角はほんのり上がっていて、奥のケンチに関しては薄目を開けて同じように口角をあげている。

バッとタカヒロを見ると思わず苦笑いでわたしの頭を撫でた。

それがまたわたしには何とも恥ずかしくて俯く事しか出来ない。

だからつい突拍子もない事を口にするしか思いつかなくて…


『奈々こんな時間に何してたの?』

『え?』

「………」


ほんの一瞬奈々の体がビクッとした気がした。

急にわたしに話しかけられたからなんだろうか。

何も言わずに俯く奈々に、何か違和感を感じてならない。

わたし今まずい事言った?



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