■ 皺寄せ3
それからどの位走ったのかは分からない。
気がついたらわたしを乗せた直人のバイクは青倉庫に戻っていて、わたしはバーには行かずにずっと外で待っていた。
時計の針はすでに23時を回っていて、当たり前に辺りは真っ暗でそれでもここはバイク音が響いて止まない。
皺寄せでも、23時を過ぎる事なんか今までなかったからわたしは次第に不安が募る一方で。
外は冷たい雨が降りしきっていた。
直人はわたしの側にピタリとくっついて、絶対に離れないで一緒に外にいてくれている。
「ゆきみちゃん風邪ひいちゃうから中入りなよ、哲也は大丈夫だから」
総長自らわたしを心配してきてくれるのは、チームのメンバーからしたら有り難いというか羨ましいとさえ思えるのかもしれない。
でもわたしはそんな優しさ1ミリたりとも嬉しくなくって、無言でタカヒロを見上げた。
ビニール傘の下、心配顔のタカヒロに向かってわたしはただ首を横に振るだけ。
「でも…俺が哲也に怒られちまう」
とても総長とは思えない程の優しい声。
素直じゃないわたしは、フイッと体の向きを変えてタカヒロから身体を背けた。
今更そんな言葉聞きたくないし。
後から優しい言葉なんていらないし。
だったら最初から言わないでよ、哲也に「行け」だなんて。
どうしてもわたしはタカヒロが好きになれなくて。
膝を抱えてそこに顔を埋めるわたしのジーンズのポケットが不意にブルッと揺れた。
『…はい』
「ゆきみ?奈々。今どこにいるのっ?大変なのっ、てっ、哲也くんがっ…」
それは思いも寄らぬ奈々からの哲也の居場所の連絡だった。
「乗れっ!!」
タカヒロに腕を引っ張られて車に乗せられる。
「直人誰にもチクんじゃねぇぞ!」
「は、はいっ!」
雨の中、静かに走り出す車。
後部座席に座ったわたしの腕をずっと握ったままのタカヒロ。
「急げ」
静かな車内に響くタカヒロの低音に哲也の容体が頭を巡る。
無言のまま10分程度で小さな公園に着いて、わたしは傘もささずに車を飛び出した。
雨を凌ぐように大きな象の滑り台の下にぐったりして横たわっている哲也と、同じ位ぐったりしているケンチの姿が目に入った。
哲也の側にしゃがんでそっと哲也の頬に触れる。
こんな姿になって欲しい訳ないのに悲しいよ。