■ 皺寄せ2


『ケンチ…』


ギュッとケンチの特攻服を握って離さないわたしに、少しだけ困った表情のケンチ。

離さないっていうより離せなくて、ケンチが呼ばれたのは哲也が危ないとかそんなんじゃなくて相手の人数が多いって意味。

強くたって人数が足りなかったら勝てないのに。


「ゆきみちゃん離して?俺大丈夫だから。哲也さんちゃんとサポートすっから!安心して…」


優しいケンチの声と温もりがわたしの腕を解いてそっと頭を撫でる。

それから視線を直人に移して「哲也さんのゆきみちゃんに何かあったらただじゃおかねぇーぞ」ドスのきいた言葉が投げつけられた。


わたし特攻服も着てないし哲也の女でもないのに、こうやって優しくしてもらって。

みんなはわたしが哲也の女と思って疑わない。

それに対して哲也が何かを言う事はなく、むしろそうとれる態度をわざと見せたりもして。

それでもわたしは哲也の女じゃないって事実がときどき凄く切なくて。

こんなんだったら最初からおとなしくタカヒロの所に乗っていればよかったのかも。

わたしが直人の後ろに乗ったのを確認してから、ケンチはすぐバイクを吹かしてわたしには分からないその場所に行ってしまった。

ケンチの音までがわたしから離れて、残されたわたしに直人がふんわり笑った。


「大丈夫ですよ、絶対!俺あんな強い人達見た事ないっすもん。一緒に待ちましょう」


鼻にかかった声でそう言った。

ケンチの弟分の直人も走りがうまくて安心出来るって。

チームoneにはあまり怖い人はいないんじゃないかって位に優しい人が多い。

みんなやんわりと言葉を発してふんわり笑う。

でもそれは、女に対してだけなのかも。

さっきの哲也にしろケンチにしろ一本の線で表される上下関係は厳しい。

上の言う事は絶対だ。

それなのに下の下の下の奴らは問題ばかり起こすんだ。

そんな奴ら追放しちゃえばいいのにって思っちゃうわたしは酷い人間なんだろうか。

だってわたしは、哲也だけ。

哲也がいればそれでいい。


『直人、出して』


黒髪を揺らして直人がわたしの言葉に頷いた。

耳が痛くなりそうな爆音と一緒に又街道に戻った。

心なしかゆっくり走ってたんじゃないかと思われるタカヒロの暴走車にすぐ追いついたんだ。



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