■ 前進7
【side 奈々】
夜の戸張がおりて艶やかな闇に包まれる。
そこに、恐怖なんて存在しなくて。
タカヒロが側にいるだけで、こんなにも安心できるんだって。
「眠れねぇの?」
ベッドの中、タカヒロに抱きしめられていたあたしは、そっと寝返りをうとうとしたらくぐもった声が至近距離から聞こえた。
『ごめん起こしちゃった?』
「俺はいい。―――俺まだ奈々のこと不安にさせてる?」
何だかタカヒロらしくないその言い方。
いつも優しかったけど、ここ数時間は極上に優しくて。
声を聞いてるだけだけど、何だかあたしよりタカヒロの方が不安を感じているようだった。
それを少しだけ可笑しく思う。
そうやってあたしを一番に考えてくれるのが嬉しいんだ。
ノリの気持ちを知ってしまったあたし達は、前に進むのに躊躇いがあるかもしれないって思ったけど…
タカヒロはその愛情を真っ直ぐにあたしにぶつけてきた。
ノリに遠慮することないってタカヒロの態度がいってる。
それをすごく感じる。
だからこうしてタカヒロの想いを受け止めることができたんだって思う。
『不安なの?タカヒロは』
そんな質問を飛ばしたらギュッて抱きしめられて、熱い吐息が肩にかかった。
「お前をそうさせてたら嫌だと思っただけだ」
『ふふ…大丈夫だよ』
「もう離さねぇから」
うん…て頷いたあたしの頬に手を添えるから、そっと瞳を閉じた。
同時に降り注ぐタカヒロの愛情。
啄ばむように唇を合わせて…
時折、甘い吐息を漏らす。