■ 前進2


――――――でも、


『わかんないの。わたしの為にってすごく嬉しいのに……ずっとノリには敵わないって思っていたから。…すごく嬉しいのに、どうしたらいいのかわかんない…』


涙ながらにそう言うわたしに、静かに哲也の腕が自分の足元に戻っていった。


「そっか」


一言そう呟いた哲也は、わたしから視線を逸らした。

正直本当にわからなかった。

自分がどうしたいのか?

どうすれば良いのか…

哲也が好きだからこそ、信じていたものが崩れ落ちてしまったような気もするし

逆に、そこまでして守られていて、愛を感じずにはいられない。

こうやってわたしの気持ちを優先してくれるのは、哲也が優しいからっていうのは勿論で。

でもやっぱりそれは、わたしに遠慮している部分があるんだって思うと嫌でたまらない。

遠慮する意味が分からないんだ。

―――――だったら…


『直人がずっと守ってくれてた』


¨直人¨の名前にほんの一瞬哲也の頬がピクンとして、わたしに視線を戻した。

悲しそうな哲也の瞳は、わたしの発言に怒ることなく真っ直ぐに見据えている。


『直人がずっと側にいてくれた』

「………」

『直人はわたしを分かってくれてる』

「………」

『直人はわたしのこと――――

「やめろっ!!」


ビクッ!

肩を揺らして怒鳴り散らした哲也を、わたしはジッと見つめて小さく『帰る!』そう言った。

部屋のドアに向かって歩いていくわたしを、ハッとしたように追いかける哲也。


「帰さねぇって言ったはずだ」


そう言ってわたしの腕を掴むと開けたドアをバンって閉めて、そのドアに押さえ付けられた。

ダンッ!!って壁に手をつく哲也は、壁と哲也自身でわたしを挟んでいて、すっごく悲しそうなその顔をゆっくりと近づけた――――

悲しみを帯びたその唇は、それでも温かくて、どうにも涙が零れた。



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