■ 情4


【side ゆきみ】



ずっと聞こえていたノリの啜り泣く声とは違う、声にならないって感じの嗚咽混じりの奈々の泣き声が後ろで聞こえた。

これでちゃんと奈々は幸せを掴める?

不安がないわけじゃないけど、タカヒロはこうなるって全部分かってて今日みんなを集めたんじゃないかとも思うんだ。

あの日、奈々を抱きしめたタカヒロに、嘘なんかないって。

倒れた奈々に駆け寄ったタカヒロは、奈々に惚れてるって……


夜の闇にまみれて、近づく二つのシルエットを背中に

わたしを乗せた哲也のバイクは青倉庫から遠ざかっていく。


わたしの頭の中は、フワフワした状態で。

今だ、哲也がわたししか見ていなかったらしい真実を受け止められない。

哲也は家に着いて、わたしはバイクから下りた。

駐輪場にバイクを停めている哲也を、わたしは黙って見つめていた。

振り返った哲也はわたしに一歩近づいて…


「ずっと嘘ついてて、悪かった」


バツの悪そうな顔でそう言うと、そっとわたしの髪に触れた。


「ノリちゃんのこと言えねぇな、俺も。お前守る為に自分の気持ち隠してたなんて」


自嘲的笑いを見せた哲也は、ポケットから鍵を取り出してドアに差し込んだ。

その後ろ姿は何だか少し切なくて、何だか、何でか、哀愁漂っているみたいで、そんな哲也を一人にしちゃいけない!!

瞬時にそう思ったわたし。


『待って!!まだ帰らないでっ!!』


口から飛び出した声は、わたしの焦っているんだか何だかよく分からない感情と同じに、自分が思うよりも大きくて。

シーンとした住宅街に、思わず息を潜めた。

でも、誰かが聞いていたとか見ていたとか、そんなこともなく…

月明かりに照らされた哲也の顔は、ほんの少し嬉しそうで。


「俺も――――帰す気はねぇよ」


笑ってわたしの手を取ると、鍵を開けた哲也の家の中に押し込まれた。



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