■ 情3
真っ暗だった青倉庫に明かりが燈って、見上げた空には小さな星が散りばめていた。
ちっぽけなあたし達は、ちっぽけなりに一歩前へ進めたんじゃないかと思う。
あの二人がこれからどうするのかは、あたし達が口出すことじゃないけれど、二人の未来を明るい物だと願いたい。
自分達が傷ついた分、幸せになってほしいと、思わずにはいられないんだ。
「もう大丈夫か」
立ち上がろうとしたあたしの肩を押さえてタカヒロがあたしを覗き込む。
心配そうなこの瞳を、あたしは何度見ただろう。
何度この人に、この顔をさせたんだろうか。
『………』
タカヒロに聞きたいことは沢山あるのに、何一つ想いを口に出せない。
自分の想いがノリに勝ったとは思わないけど、素直にタカヒロに想いを伝えていいんだろうか。
そんな何も言わないあたしをやっぱり不安げに見つめるタカヒロは、あたしの手をギュッと握った。
熱い吐息が手にかかって心拍数が一気にあがる。
「ずっと側にいなくて悪かった。マスターに一真のこと聞いて、ずっと一真を捜してた」
『うん』
でも違う。
そんなことが聞きたいんじゃないの。
「俺のせいだな…」
もう傷痕の消えた頬に手を添えてそう言ったのは
再会したあの日、タカヒロがあたしにくれなかった言葉。
でもそんなんじゃなくて。
『………』
「奈々」
『………』
「力づくでお前を手に入れることも考えた。でも、…違げぇーって。相手も納得させらんねーのにお前にだけ気持ち言っても通じねぇだろって思って…何が何でもノリを納得させる気だった」
『………』
「奈々―――お前を手に入れる為に」
低く甘い声があたしに届いた。
「もう何の遠慮もいらねぇ」
『………』
「ずっと側にいてやる」
聞きたかった、知りたかった…タカヒロの気持ち。
きっと簡単じゃない。
タカヒロもきっとたくさん悩んでくれたって。
どんなにノリを傷つけてでも、今こうしてあたしを選んでくれたってこと…
―――あたしは一生忘れない。
ノリの傷は、あたしも背負って生きていくんだ。