■ 涙の意味5


『ごめんなさいっ』


膝まづいてそう泣き叫ぶノリを、誰も滑稽だとは思わない。

何度も同じ言葉を繰り返すノリを、カッコ悪いだなんて思わない。

そう想えるくらいの人に出会えたってことが幸せなんだって。

できるなら、あたしはタカヒロの幸せを願える人間でありたい。

だからもう、どんな答えであっても覚悟はできてる。

できているのに、やっぱり胸が痛くて涙が一粒零れてしまったのは、¨タカヒロ¨の為でもあり、¨タカヒロ¨のせいでもある。


「分かってる」


そう呟いたタカヒロの一言は、どうとでもとれるわけで。

ノリの言いたいことは「分かってる」なのか。

『ごめんなさい』に対して「分かってる」なのか。

きっとどっちをも含んだ「分かってる」なんじゃないかって。

あれだけプライドの高いノリが謝る行為自体がもう、ノリ自身が傷ついているんだって。

そんな意味も含めての「分かってる」なんだって。

そんなノリの責任を取ると言ったタカヒロの覚悟はそうとうなんだって。


『あたしには相応しくない』


そう言ってノリが指差した先には、いつの間にかケンチが持ってきていた、タカヒロのジャケットがあった。

タカヒロに返しておいてほしい…と、あたしがケンチに頼んで渡した、タカヒロのジャケットだった。

『返せ』と言ったノリが『相応しくない』って言った意味は分かる。

それは、タカヒロには責任を取らせないってこと。


「ノリ…―――悪かった――」


小さな掠れたタカヒロの声が青倉庫に届いたんだ。



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