■ 涙の意味4


【side 奈々】




視線をタカヒロに移したノリをジッと見据えていたタカヒロは、ゆっくりと立ち上がって直人を呼んだ。


「奈々を見てろ」


一言そう言ってあたしから離れるタカヒロ。

さっきまでの苦しさはもうなくって。

それでもこうやって胸が締め付けられるみたいに痛いのは、タカヒロが好きだから…なんだって。


『タカヒロ…』


近づくタカヒロにそう呼びかけるノリは、今までの強気なオーラなんて欠片もなくて。

人間なんて簡単に崩れてしまうものなんだってよく分かった。

ノリの場合は、嘘で固めた真実の重さを抱えきれなかったって感じ。

誰だってやましいことを抱えて生きていくのは辛いだけ。


『ずっと淋しくて…いつも不安で…どうしようもなくて…哲也に頼って…それでも収まんなくて、一真に…』


そう言って口をつぐむノリは、やっぱり自分のしたことをちゃんと分かっていて。

分かっていながらそれを止められなくて。

タカヒロを離したくない一心でそうするしかなかったんだって。

誰かを好きになったら、本来は相手の幸せを願うべきものではないんだろうか。

でもそんなの本当はただのきれいごとなのかもしれない。


自分のことを見て欲しい

分かりあいたい

好きになって欲しい

触れあいたい


想えば想うほど、我が儘にその願いは大きくなる。

そうなると周りが見えなくなって歯止めがきかなくて、自分の想いとは裏腹な行動をとってしまうこともあるのかもしれない。

誰かがノリを止めてあげられたなら?

ノリが抱えてる罪の重さに気づいてあげられたなら

ノリの暴走は止まったのかもしれない。

…―――けど、今更どう足掻いたって過去は消せない。


あたしの傷も消えない。

それでも、想う――――

傷は消せないけど、癒せるって。



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