■ 涙の意味3


今までが今までだっただけに『はい、そうですか』って、哲也の気持ちを素直に受け止められないわたしは、一体どうしたらいいんだろう。

だからって、本音なんて所詮は口に出さないと相手には伝わらないもので。

それをあえて口に出さなかった哲也は、…¨出さなかった¨んじゃなくて、¨出せなかった¨んだって。

どんな守り方であっても、わたしをただ守りたかったっていう哲也の気持ちは無駄にはできやしない。

だからわたしは、ノリのしたことで奈々を酷く傷つけてしまったけれど、それを全面に責める気にはなれずにいる。

恋する女として、その気持ちは分かるから。

だからノリが自分からその口を開かなきゃダメなんだって。




どれだけ時間がたったか分からない。

広大な空はもう、赤みを失って闇に包まれている。

啜り泣くノリの声は今もまだ止まらない。


「ノリ」


ゆっくり口を開いた一真に、今度は否定の言葉を飛ばすこともなく、そのままノリは視線を移した。


「俺が、お前の責任とらなきゃダメだ」


一真がすっきりしたように見えるのは、哲也に殴ってもらったからなのか、気持ちの切り替えができたからなのかは分からない。


「誘ったのはお前だけど、それにのったのは俺だ」


穏やかな声はゆっくりとノリに近づいて、そっとノリに向かって腕を伸ばした。

触れる寸前で止まって、そのままジッとノリを見つめる。


「何も言わなくていい。この手を握ったら、俺は…――お前だけを見ていく」


決してわたしを振り返ることなく、一真がそう言った。

さっきはあんな風に一真を責めた失言を思ったけれど、一真は今日ここに来た時点で、本当はノリのことちゃんと考えて来たんじゃないかって。

わざと自分が悪者になったんじゃないかって。

話の内容を知っていたからこそ、少しでもノリの負担を取り除こうとしてくれたんじゃないかって。

少なく共、わたしはそう思いたい。

たった二人きりの哲也の兄弟を憎むことなんて、やっぱりしたくない。

昔の優しかった一真を知っているからこそ、わたしはそうだって信じたいんだ。



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