■ 真実一つ5


だからってそう思うわたしを、奈々は絶対に責めないだろう。

でも…

そこまでするノリの気持ちを思うと何とも言えなかった。

タカヒロの気持ちが奈々へ奈々へ行けば行くほど、辛かったんだって。

それで一真に助けを求めるのは間違っていると思うけど、そんなやり切れないノリの気持ち全部が分からないわけじゃない。

そんなのも全部分かった上でタカヒロは…


「そうゆーの全部分かっててタカヒロは覚悟決めたんだって。自分の女のしたことの責任とる覚悟決めて、タカヒロが父親になるならそれでもいいって思ってた。だからずっと黙ってた」


一真の言葉に腹が立った。

それは哲也も同じだったみたいで。

わたしの頭を優しく撫でると、哲也の温もりがわたしから離れていく。

それを寂しく思うこともなく、わたしはその後ろ姿を見送った。

でもそれは、いつも感じていたあの何ともいえない寂しい疎外感なんてなくて。


「上等だぜ、一真」


そう怒鳴った哲也は、右手を振り上げて無抵抗って感じの一真を思いきり殴り飛ばした。

でんぐり返しで転がる一真に飛び乗って、哲也は更に拳を振り上げる。

わたしに会いたくてノリの誘いにのったっていう一真は、やっぱり哲也に止めてもらうのを待っていたかのようで、抵抗すらしないでずっと歯を食いしばっている。


でも、そんな哲也を止めたのは、

その場に崩れ落ちるノリの泣き声だった…



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