■ 真実一つ4


「俺と、お前の子なんだろ?」


何も答えないノリの涙は、YESともNOとも取れて。

一真はほんの一瞬わたしに視線を向けると、ゆっくりと重い口を開いたんだ。

もしかしたら一真は哲也に止めてもらいたかったのかもしれない。

たった二人だけの兄弟の哲也に「やめろ!」って止めてもらいたかったのかもしれない。

戻ることのできない闇に入り込んだ自分を、唯一の弟に救い出してもらいたかったのかもしれない。

自分を止めることができるのは哲也しかいないって、そう思っていたんじゃないだろうか。

許す、許さないの世界なんかじゃない、兄弟の絆を確かめたかったんじゃないのかもしれないね。




ずっとラブラブだと思っていたタカヒロとノリは、アキラが亡くなってから少しずつ距離を感じていたらしい。

愛情の¨愛¨が抜けた¨情¨だけで繋ぎ止められていた二人の関係は、奈々が現れたことで大幅に変わってきて。

ある日の帰り道、真夜中の公園で佇む奈々を見つけたタカヒロは、単独で奈々の行動を調べ出していて…

ノリはそんなことが悔しくて、一真に話を持ち掛けたんだ。


『ゆきみに会わせてあげるからあたしに協力して』

「お前、タカヒロの女だろ?…――抱かせろよ、協力してやるから」


そうして始まった二人の関係。


「似てるんだたぶん。どっかで勝てねぇーって分かってんだよ。ノリを抱いてる時いつもそれを感じる。敵わねぇ想い抱えながらそれでもそいつに惚れてて」


そう言う一真の視線は、哲也の腕でガッチリとガードされてるわたしに向けられている。

わたしと奈々が初めて会った時、奈々を囲んだ奴らも、わたしと奈々をTSUTAYAから曝った奴らも、全部が一真の命令で、それがノリのさしがねだったなんて。

何も知らないっていうのもある意味罪なんじゃないかって思ってしまう。

知らなかったとはいえノリのしてきたことで、奈々を悲しませたのは事実であって。

何も知らずにただ奈々の側にいただけの自分を悔しく思った。

あの時分かっていたら、奈々を悲しませないでいれたの?

そう、結局後から思うのは¨後悔¨だけ。



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