■ 真実一つ3
『フッ…』
その声に反応して顔を上げたわたしから、哲也越しに見えるノリは、そんな哲也の謝罪に自嘲的笑いを零したものの、次の瞬間言葉にならないって顔を歪ませてポロッと涙を流した。
次から次へとノリの頬を涙が伝っていって…
ノリにとっての哲也は、わたしにとっての直人と一緒なんだって。
直人はいざって時に絶対わたしの味方でいてくれて、絶対にわたしを拒否しない。
そんな直人の想いが嘘だったら、わたしも同じように泣くんだろうか。
直人の想いが嘘だったらやっぱり悲しいのかもしれない…なんて思うのは、やっぱり酷い奴なのかもしれない。
静かな青倉庫に響くのはノリの啜り泣く声と、夏を象徴する蝉の鳴き声。
わたし達を紅く染めるセピア色の空は果てしなく広くて、なんでか自分達がちっぽけに思える。
そんなちっぽけなわたし達は、迷いながら今を精一杯生きていて、この先、どんな人にも幸せは訪れるって思える日が来るんだろうか―――
「ノリ」
不意に聞こえたその声は、一瞬哲也かと思えるくらいの優しい声だった。
今の今まで一言も口を開かなかった一真の声。
聞こえているんだろうノリは、一真の言葉にも声にも一切反応を見せない。
そんなノリにもう一度しっかりと
「ノリ」
そう呼ぶ一真の声は、わたしの哲也とそっくりなんだ。
『あんたじゃないっ…あんたじゃない!!』
泣き叫ぶノリは、一真を否定しているようで…
今、声をかけて欲しいのは
¨あんたじゃない!¨って言いたいのか、それとも…
父親は¨あんたじゃない¨って言いたいのか、どっちともとれるようで。
実際口に出した言葉はわたし達に聞かせるとかじゃなくて、ノリ自身に言い聞かせているように思えた。
そんなノリの腕を掴んで
「お前の腹の中の子は…―――――俺の子だろ」
『………』
思考が止まったみたいに微動だにしないノリは、ただずっと涙だけが零れ落ちている。