■ 責任感3


『責任とって。あたしとこの子を育ててタカヒロ』


お腹を軽く摩ってタカヒロを見上げるノリは、ホッとしたような表情で…

あたしはやっぱり胸が苦しくて…

ノリの願望に対して「そうか」そう小さくタカヒロが呟いた。

次の瞬間、ジリ…って音がして。

それはコンクリートを歩くゆきみのスニーカー音で。


『待ってよ!』


そう叫んだゆきみに少しだけ嬉しさを感じた。

タカヒロを苦しめたいわけじゃない。

でもこのまま黙って『はい、そうですか』って聞いているのも辛い。

こうやってゆきみが前に出たのは、少なくともあたしの気持ちをしっているから。

あたしがタカヒロを好きだって、知っているからなんだって。


『タカヒロの気持ちはっ?タカヒロの気持ちはどこにあるのっ?ノリを好きで一緒になるって言うなら何も言えないけど、責任ってなにっ?何でタカヒロが責任とるのっ?!』


そう言うゆきみの声は震えていて、タカヒロの胸倉に掴みかかっている。

そんなゆきみに対して「ごめん」って言うタカヒロの言葉は物凄く小さくって、そんな小さな呟きはノリの言葉で消されてしまう。


『相手はタカヒロだって言ってんじゃんっ!母親はあたしだよっ!誰が父親かなんて、あたし以外に分かるわけないっ!分かったようなこと言わないでよっ!』

『奈々が好きって気持ちは?』


ノリの言葉に応えることなく、ゆきみはタカヒロしか見えてないって感じで、掴んだ胸元に頭をつけて祈るみたいな声を出した。


『だいたいあんたのせいじゃん!』


ゆきみに無視をされたからか?

ゆきみの質問にタカヒロが答える前に、ノリの大きな声が今度はあたしを突き刺した。

不意にフラれた言葉に、吃驚して何かを答えることはおろか、この場に固まってしまって身動きすらとれない。

あたしを見つめる…睨むノリは、ソファーに寄り掛かったままで。


『何もかもあんたのせいよっ』


もう一度あたしにそう言ったんだ。



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