■ 一途さ5
言いたいことはそんなもんじゃなくて、沢山沢山あるのに、ただジッとそこに留まっているタカヒロに何一つ言えなくて。
わたし達を睨んでいるのか、見守っているのか、何とも思ってないのか、
わたしには読み取れなくて。
だから何も言えない。
こんな時、感情的になれたらいいのかな?
妙に冷静でいる自分を少し悲しく思う。
人一倍頭の中では言葉を並べているのに、口から吐き出すのは一言、二言で…
それは冷静なんじゃなくて、ただの臆病者なんだって…
――――――――でも、思う。
タカヒロの行動一つ一つに、意味のないものはないんじゃないかって。
全ては奈々の為なんだ、ってそう思いたい――――
そんなわたしの思いのような願いのような、祈りは…
絶対にこの場所には不似合いだと思われる一台のバイクが入って来たことで、確信に変わった。
『か、…一真?』
ぎゅうってケンチの腕を痛いくらい握りしめるわたしは、少し震えている。
何だか分からない震えが込み上げてくる。
隣のケンチの目つきが特有の鋭いものに一瞬にして変わって…
バイクを止めた一真は、わたしを見てほんの一瞬苦笑いをした。
なんだろう、この感じ。
そう思った矢先だった。
わたし専用だった直人のバイクが奈々を乗せたまま、あろうことに青倉庫に到着した。
合わせたように、地下のVIPから哲也とふてくされた表情のノリが出てきた。
完全に哲也に手首掴まれて引きずられるみたいなノリは、一真の姿を見てその顔が絶句する。
直人の後ろで奈々も、動揺の色を見せていて。