■ 一途さ3


「言ったはずだケンチ倉庫を頼むって。女に構ってる余裕あんのか?…奈々を守りてぇならまずは倉庫どうにかしろ」


あたしを呼び捨てにしちゃう哲也くんは本気で。

ケンチに向けられた言葉だって百も承知だったけど、全身凍り付くんじゃないかってくらいに怖かった。


『哲也、そんな言い方…』


ゆきみがそう言って哲也くんを掴むけど…


「黙ってろ」

『ケンチだって奈々を大事に思ってるよ、哲也』


引かないゆきみに哲也くんは視線を移して小さく溜息をついた。


「分かってる」


そう言ってゆきみの髪に触れて。

そうやってゆきみを甘やかす哲也くんは、きっとあたしのこともケンチのことも考えてそうしたんだって。

少なくとも、あたしのケンチに甘えたくないって気持ちを理解してくれてるんじゃないかって思った。


『ゆきみありがとう。あたし直人に送ってもらうから大丈夫だよ』


作り笑顔かもしれないけど、笑えるだけまだマシだって思った。

煮え切らないようなケンチに近づくあたしは、手に持っていた薄手のジャケットを差し出した。

¨それ¨を見たケンチは吃驚するくらい顔を歪ませて。


「これ…」

『ごめんね、返しておいてほしい』


受け取ろうとしないケンチに、半ば無理矢理押し付けた¨それ¨は、あたしを守ってくれていたお守り。

¨それ¨を持っているだけで安心できるタカヒロのジャケットだった。


初めてこの青倉庫に来た時に、タカヒロがあたしにくれたもので。

惚れた女にマーキングする術だなんて知らずに着ていたあたしを見て、ゆきみもケンチも直人も笑っていたんだっけ。

もう、遥か昔のことのようにも思えてくる。

あの頃のあたし達は、まだ惚れた晴れたなんてことには無関心で、ただこの世界に存在するだけで精一杯だったと思う。

タカヒロを好きになるなんて、思ってもみなかった。

これが、あたしに定められた運命というなら…

その運命を決めた神様を恨むよ…

誰だって幸せになる為に出会った…って思いたい。


ねぇ、タカヒロ…

どこにいるの?



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