■ 一途さ2


今、優しさに甘えてしまったらもうあたしはタカヒロを好きでいる資格さえも無くしてしまう気がした。

それは単なるあたしのエゴなのかもしれないけど…

せめて、タカヒロを好きでいたい。

想いが叶わなくても、自分の気持ちに正直でいたいんだ。

結局あたしは、ノリのお腹の子供の相手がタカヒロだと思っている。

あたしを簡単に手放したタカヒロをほんの少しだけ悲しく思うんだ。

あたしが何を言っても、あたしを本気で好きだと思うなら、離れなきゃいい。

そのくらいの覚悟で、そのくらいの気持ちをぶつけて欲しかった。

なんて思うあたしは卑怯者なのかもしれない。

タカヒロなら引き止めてくれる…とか

心の何処かで思っていたんだと思う。


『ありがとう…でも大丈夫』


肩にかかっていたケンチの腕を離すように、あたしはケンチの側を離れた。

困惑したケンチの視線があたしを追っているのが分かる。


『ゆきみやっぱり帰ろうかなあたし』


居心地が悪いとか、そんなんじゃなくって。

ただ、ケンチに迷惑かけたくないだけ。

ただ、哲也くんの負担を軽くしたいだけ。

そんなあたしの気持ちを見透かすみたいなケンチと哲也くん。

その視線が痛くてあたしはゆきみの腕を強く引いて俯いた。


『うん』


握り返してくれたゆきみの手はとても温かい。

タカヒロの温もりと似ていて、胸が痛くなった。


「送るよ」


それでもケンチは、離れたあたしの腕を掴んで…


「直人、お前が送れ」


哲也くんの低い声が響いた。

ケンチを通り越して直人にそう言う哲也くんに、ケンチのあたしを握る腕に力がこめられた。


「哲也さん、俺が」


哲也くんにたて突こうとか、そんなんじゃなくて。

それがケンチの気持ちって分かってる。



- 182 -

prev / next

[TOP]