■ キミを守るために3
『あ、ゆきみのどこが好き?って』
「全部」
『えっ?』
即答だった。
あたしは聞こえてなかったんじゃなくて、哲也くんの言った言葉の意味がいまいち分からなくて、キョトンと聞き返したわけで。
煙草をトントンって灰皿に落とす哲也くんは、あたしじゃなくて窓の外を眺めていて。
まるでそこにゆきみを思い浮かべているようにも感じる。
「あいつの顔も声も身体も、仕種も性格も、泣き虫な所も…あいつの全部に惚れてる」
胸がキュンってした。
それは勿論、あたしが言われたわけじゃないんだけど…
実際にはあたしに言ったんだろうけど…
ただ一言「好きだ」って言われるだけでも、身体がほてってしまうのに。
こんなにもゆきみを想う哲也くんの気持ちを、軽はずみに聞いてしまった自分が少しだけ恥ずかしい。
その想いの大きさというか重さに、あたしは単純にドキドキして黙り込んだ。
「あいつまだ俺を疑ってた?」
そんな何も言わないあたしに、きっちり視線を飛ばしてくる哲也くんは、ゆきみの哲也くん。
ほんの少し困惑気味にあたしをジッと見ている。
『…ノリのこと?』
ゆきみが哲也くんを疑う理由は¨ノリ¨のことで。
ノリからもゆきみからも…あたしは哲也くんのノリへの気持ちを聞いている。
半信半疑ながらもそうであって欲しくないって思いながらあたしも哲也くんを見つめ返した。
「狙われるだろ…俺の女なんて言ったら……常に一緒に居てやれればいいけど、そうもいかねぇ……だからノリちゃんって思わせた」
そこまで言うと、あたしから目を逸らして今度はうなだれるみたいに俯いた。
胡座をかいている足に肘をダランておいて俯く哲也くん。
『思わせた?』
「あぁ」
顔をあげずに俯いたままそう言った。
『…………』
「総長の女っていうのは、チーム全体が守ってくれる。守らなきゃなんねぇんだ。だから俺が惚れてんのがノリちゃんだって思えば、俺を嫌いな奴らもそこを狙っていくって。そういう意味では俺はノリちゃんを意地でも守ってる。でも、もうそんなままごとも終わりだ」
そう言って煙草を吸い込んで煙りを吐き出した。