■ リスク5
「ケンチに気づかれねぇように奈々に電話しろっ!絶対気づかれるんじゃねぇぞ!!…今日からお前の役目だ、奈々を守れ」
「え、哲也さん自分…」
困惑した表情と声は直人のもので。
有無を言わさない哲也の瞳。
「ガタガタうるせぇっ!早くかけろ!泣かせんじゃねぇぞ」
そう言うとわたしに手を伸ばす哲也。
そのままわたしの肩に腕を回して。
「こいつは俺のだ」
「…はい」
たぶん、今までで一番切ない直人の表情をわたしは見たんじゃないかって。
一生を考えたなら、たかが15,6歳の恋愛なんておままごと程度の緩い関係だって思うのかもしれない。
大人からすれば、それは正論かもしれない。
でもだからって、今この瞬間がおままごとだと思っている人なんて、ただの一人もいなくて…
たかが中高生のわたし達は、真剣に恋愛をしている。
一生分の恋愛をしているんだ。
直人にあんな顔をさせるわたしは、第三者から言わせたら¨酷い女¨なのかもしれないけど…
それ以上に、わたしは哲也が好きで仕方ない。
「ケンチ、しばらく帰らねぇかもしれねぇ…倉庫を頼むぞ」
「はい、哲也さん」
キョトンとした顔でケンチが素直に頷いた。
バーを出て行こうとするわたしと哲也を呼び止めたのはマスターで。
「哲也、落ち着いたら連絡くれや」
何だかちょっと意味深にそう言って、マスターはわたし達を見送った。
直人は、一度もわたしのことを見なかった。
それが全身で拒否されているみたいで、胸が痛かった。