■ リスク4
「好きじゃねぇ……ゆきみ、お前を守る為だ……もう直人に任せておけねぇよ」
よく意味の分からない言葉だった。
まさかの冗談を言っているわけではなさそうで。
キョトンとしているわたしに顔を埋めるみたいに、ただ触れるだけのキスをする哲也…
トクン…トクン……
心臓が痛い。
『哲也…』
「悪い、少しだけ……」
目の前の哲也が、少し強引にわたしの後頭部に回した腕を引き寄せて、そのままキスを繰り返す……
感情を抑えられないって感じで、息をつくひまもなく舌が入ってきて……
頭の中が真っ白になりかけるわたしは、このまま哲也に抱かれてもいいとすら思っている。
そんなわたし達を分かってか?
…分かってるわけのない携帯着信音に、わたしは哲也から離れた。
開いた画面には親友の名前。
『奈々、どうしたの?タカヒロは?』
勝手に思ってた。
タカヒロを奈々の所に連れて行ったら、後はタカヒロが奈々を幸せにしてくれるって。
もう安心だって。
奈々のおかれている状況とか立場とか、そんなことも全部タカヒロは吹き飛ばしてくれるって。
もう心配ないよ、大丈夫だよって抱きしめてくれるって。
それぐらいの覚悟で、わたしはタカヒロを奈々の所に連れて行ったと思ってる。
それが、わたしの独りよがりな考えだなんて…
『ゆきみッ…』
どうして奈々は泣いてるの?
タカヒロと一緒にいるんじゃないの?
不安だけがわたしを取り巻く。
『ゆきみッ…どうしたらいいか…わかんないっ…』
『す、すぐ行くからっ!』
電話を切って哲也を見るともうドアに手をかけていて、わたしが駆け寄ると腕を掴まれて、VIP部屋から連れ出されたんだ。
長い廊下を抜けてバーに入ると直人とケンチが、わたし達がいなくなる前と何等変わらない格好で飲んでいた。
「直人ちょっとこい」
「はい哲也さん」
直人を少し離れた場所に連れていく哲也はほんの少し苛々している。