■ リスク3
『なにも言われてないよ…』
「…俺が相手かもしんねぇ…って言われたのかよ」
わたしの嘘は通じないらしく。
チッて哲也はそう言って舌打ちをした。
でもそれは、わたしに対する怒りじゃなくて、ノリに?
それともノリにそう言わせた自分自身に?
その怒りが哲也自身というのなら、そこまでして守られているノリに嫉妬すら感じていしまう。
わたしに問いかけるっていうより、哲也自身が納得しているように感じ取れて、あえてわたしは何も答えなかった。
「俺お前のことどんだけ泣かせた?」
わたしの髪に顔を埋める哲也はとても温かい。
『慣れてるよ…』
ちょっと冗談ぽく言うわたしの髪に、哲也が指を差し込んでそこにチュッて口づけた。
「慣れんなよ、んなこと」
あっさりと矛盾を言われて…
顔をあげるとわたしに気づいて哲也もこっちを見て、いつも以上に優しい瞳をわたしに向けている。
フッて笑ってわたしの背中から肩に移動させた腕をグイッて押して、わたしをソファーに座らせた。
「計算が合わねぇ。タカヒロが奈々ちゃんに本気になってからはあいつらは繋がってねぇ…腹の中の子供はまだ四週目だ…」
隣に座った哲也は、わたしの手を握りしめながらそう言った。
『哲也は、ノリが好きなんじゃないの?』
それはずっと聞きたくて、でも聞けかったこと…
わたしはその言葉に今もずっと囚われている。
聞いてしまったら、わたし自身が壊れてしまうんじゃないかって思ってたから。
哲也の口から「イエス」を聞いてしまったらもう終わってしまうから。
怖くて俯くわたしの頬に手が触れて…わざわざわたしを見つめさせる哲也の瞳は真剣で。
どんな答えが出てこようともわたしの気持ちが変わることはない。
頬を一撫でした手は、わたしの肩に落ちて体ごと哲也の方に向かされた。