■ リスク2


【side ゆきみ】





「好きだ」


低く甘い哲也の声がわたしに届いた。

全身壊れるんじゃないかってくらい強く抱きしめられている。


『て…つ…?』

「ずっとお前だけを見てた」


真っ直ぐにわたしを見つめる瞳は、哲也以外の誰でもなくて

反射的に涙が零れた。

この言葉を嘘にはしたくなくて、ただわたしは涙がボロボロ止まらない…


「ノリちゃんの相手だけど…」

『だ、誰?』


泣きながらそう聞くわたしの声はグスグズで、聞き取りにくいにもほどがあるというのに哲也にはしっかり届いているよう。


「タカヒロでもねぇと思う…言わねぇんだよ、ノリちゃん…タカヒロを奈々ちゃんの所に行かせたくねぇ…って精一杯抵抗してる…」


哲也達が何も知らないわけがなくて。

いつだってわたしの前を歩く哲也。

それは一歩じゃなくて、二歩も三歩も前で。

この距離がいつも縮められなくて一人で追いかけてきた。

でも、今目の前にいる哲也はその距離を縮めてくれている。

歩くのが遅いわたしの所まで戻って、わたしに手を差し出してくれている。

うううん、本当は最初からずっと同じ歩幅だったのかもしれない。

いつだって哲也はわたしに合わせていてくれてたのかもしれない。

わたしがそれに気づかなかっただけなのかもしれない。


『ノリは、タカヒロが好きなんじゃないの?』

「あぁ」

『だったらどうして?相手はタカヒロでも……哲也でも…ないの』


¨哲也¨って言ったら、言われた哲也はピクンとしてそれから深く大きく溜息をつくと更に強くわたしを抱きしめた。

今の聞かなかったことにするの?

それとも聞こえなかったフリ?

この期に及んでわたしはまだ哲也を信じきれていないらしい。


「お前がおかしかったのってそれか?」

『おかしかった?』

「あぁ。俺のことちょっと避けてたろ」


耳元で囁く哲也の声は甘い。

ダークな話しをしているのにその声は甘くて変な気分。


「ノリちゃんに何て言われたんだ?」


わたしの異変に気づいていたらしい哲也の言葉に、内心嬉しくなりながらもわたしは口を開くことができない。



- 170 -

prev / next

[TOP]