■ 崩壊6


ねぇ、タカヒロ。

どうしてあたし達は出会ってしまったんだろう。

こんな辛い恋になると分かっていたのなら、出会わなければよかったのに。

神様は全部分かっていて、あたしとタカヒロを出会わせたの?


『もしも、タカヒロの子だったらどうするの?』


口に出した声は震えていた。

悲しみなのか、悔しさなのか、怒りなのか…

そのどれもが混ざっているのもしれない震えが、あたしの全身を包んで止まらない。


「それでもお前を離さねぇって決めた」


そんな言葉、当てつけだよ。

あたしの出る幕なんて、最初っからないじゃんっ。

あたしが妊娠したわけでもないのにこんな気持ちになるのは、あたしが女だからなんだろうか?

タカヒロを好きになって幸せを沢山もらったあたしはもう、多くを望んじゃいけないんだって。

そう神様が言ってるのかもしれない。




――――――幸せは一瞬にして崩れ落ちるんだって…――――――




『ダメだよタカヒロ…お腹の子供に罪はないよ。生きようとしている命に罪はない……』


抱きしめているタカヒロの胸を手で押して距離ができる。


「奈々?」

『もう大丈夫だよ、もう来なくていいよ』


ピクンってタカヒロの身体が動いた。


「何言ってんだよ」

『もう十分守ってもらったから…ありがとう』


タカヒロの背中を押して無理矢理部屋から追い出す。

痛くて身体なんて動かないはずなのに、あたしは立ち上がって困惑するタカヒロを部屋から押し出した。


「よせ、奈々、無理だ」


そんな風に言ってもらう資格、もうないんだよ。

それなのにそれでもあたしを選ぼうとしてくれるタカヒロの気持ちが嬉しくて。

あたしは涙が零れ落ちた。


こんな風にタカヒロを傷つけなくてはならないなんて、本当神様は意地悪だな…


『ごめんね、あたし…ほんとはケンチが好きなの…だからもう構わないで…』


見え透いた嘘をついたあたしに、

カチャン…

ドアの閉まる音がして、耳を塞いだ。

ドンドンとドアを叩くタカヒロ。


「奈々ッ!!」


そう呼ぶタカヒロの愛しい声。

聞きたくない!

何も聞きたくなくない!

だってあたしは絶対に失いたくない人を自分で手放してしまった…

もうあたしの居場所なんてどこにもない。



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