■ 崩壊5


【side 奈々】




「遅れてごめん」


そう言ったタカヒロの声は掠れていた。

顔を見たら全て許してしまいそうで、

全てを捧げてしまいたくって…


『ずっと待ってたよ』


あたしの頬に手を添えるタカヒロは、あたし以上に泣きそうな潤んだ目をしていて。

青々としている頬にそっとキスをした。

ここに来たってことはもう、あたしだけのタカヒロだって思っていい?

ノリとはきっちり終わったってそう思っていい?

そう口を開こうとしたあたしに届いたのは、予想外の切ない言葉だった。



「ノリが妊娠した…」

『え、…』


何言ってんの?

溢れていた涙もすっ飛ぶくらいに理解できなくて。

でもだからタカヒロがここに来れなかったんだ!って納得している自分もいて。

思ったとおり、タカヒロはノリに監禁まがいのことをされていたのかもしれないって。

でも、今のあたしには、そんなことはどうでもよくって…


『タカヒロの子なの?』


そう聞くと、あたしを抱きしめている腕にいっそう力を込めた。

それが何を意味するのか、聞くのが怖い。

こんな話を持って来るんだったら、いっそずっと来ないでいてくれたらよかったのに…

幸せを願って待っていた方がよかったよ。

そんな気さえわいてくる。


「俺じゃねぇと思う」


専らタカヒロの言ってる意味も分からなくて。


「お前の所に来るようになってから…ノリに手出してねぇ…」

『…………』

「…お前に本気になる予定じゃなかった」

『…………』

「お前みるとコントロールできねぇんだよ…」


弱々しくそう言うタカヒロは、チームoneの総長の欠片もなくって、あたしの肩に顔を埋めている。

このまま壊れてしまいそうな気さえしてしまう。



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