■ 崩壊3


「なんもでねぇぞ、んなこと言っても」


そう言うケンチはちょっぴり嬉しそうで…


「すいません、そんなつもりじゃ」

『やっぱケンチ、モテんだぁ』


あえて直人の言葉に被せるようにわたしは笑った。


「そんなん一言も言ってねぇーよ」


呆れたケンチの声。


『そんなケンチの本命は、やっぱり奈々?』


それはいつもみたいに冗談で。

のりのいいケンチだからふざけて言ってノッてもらおうって魂胆で。

指で作ったマイクを差し出したわたしに、直人の笑顔が重なって微笑みあった瞬間だった。










「…冗談抜きで惚れてる」


哲也やタカヒロの前でしか出すことのない低い声だった。


「俺あいつ欲しくてたまんねぇ」


やるせない切ない声がわたし達に届いた。

辺りはチームの子が沢山いて、JAZZチックな音楽までかかっているというのに、わたし達の周りだけシーンとしている。


『ケンチ本気?』

「あぁ」

『そ、そ、そう』

「タカヒロさんと、何があんのか気になって仕方ねぇ。タカヒロさんが奈々を守ってんのとかすげぇ分かる…俺に任せてくれたらいいのに…」


俯くケンチの声はすごく小さいのに、わたしと直人は一言も零さないで聞いていた。


例えばケンチの想いが奈々に通じたならば、奈々は幸せでいられるんだろうか。

二人の未来は輝きに満ちていると言えるんだろうか。

どうしても奈々の想いを叶えてあげたいと願うわたしは、ケンチに対して偽善者になってしまうの?

沢山辛い目にあってきた奈々だからこそ、これから歩む道は明るい道であって欲しい。

奈々が望む大好きな人が、これから先ずっと奈々を守って生きてほしいってそう願わずにはいられないんだ。



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