■ 束縛6
「後ろ乗って」
バイクに跨がったタカヒロの後ろに、わたしは飛び乗った。
ノリはきっと、奈々もわたしも苦しめたいはず。
哲也を大好きなわたしを苦しめるのは、哲也が自分を好きだって分かっているから。
哲也のことでわたしが悲しい顔をしたら、それだけでノリは満足なんじゃないかって。
哲也のことでわたしが泣けば、ノリは一瞬でもきっとタカヒロを離すんじゃないかって。
奈々がうなされながらずっと『タカヒロ何で来てくれないの』そう言っていて…
正直見ているのが辛い。
そこまでタカヒロを想っている奈々のもとに、なんとかタカヒロを届けてあげたい。
なんていうか…タカヒロはずっと奈々の所に行ってたから、当然のことながらあのお祭りの夜も行っているもんかと思っていたけど…
実際奈々はあんな目にあっていて…
タカヒロが奈々の所に来れない理由なんて、ノリ以外に考えられなくて。
ノリに奈々のこと、話したのかもしれないって。
だからノリがタカヒロを離さないんだって
馬鹿なわたしの頭では、そんなことぐらいしか考えつかない。
それが真実かなんて分からないけど、タカヒロの顔を見たらあながち間違ってない気がした。
でも、わたしが哲也のことで嘘泣きなんてできるわけもなく…
どこかで哲也を疑っていながらも
どこかで哲也を信じていたくて
哲也の”大事な話”をあの場で聞く勇気は、わたしにはなかった。
そう思ってるうちに、タカヒロのバイクは奈々の家に着いて…
わたしを忘れてんじゃないかって思うくらい全力疾走するタカヒロを、嬉しく思った。
合鍵を持っていたタカヒロを、やっぱり嬉しく思ったんだ。
「奈々ごめんっ!」
そう言って部屋に入ったタカヒロと入れ代わりで出てきた直人は、わたしに優しく微笑みかけたんだった。