■ 束縛5
「…分かった」
そう言わせたのはわたしなのに、素直にそれに従う哲也が嫌になる!!
分かってない!
分かってないっ!!
哲也は全然分かってない!!
女心も、わたしの気持ちも…。
簡単にノリを選ぶ哲也に腹がたって仕方ないのに、それでもわたしはこの想いから解放されることなんて永遠にこないんだろう…。
もどかしくて、悔しくて涙が出る。
わたしから離れた哲也は、静かにVIPに歩いて行った。
その後ろ姿を見送るわたしは、視界がどんどんボヤけてしまって。
泣くな、ゆきみ!!
これからまだ、哲也の大事な話が待っているのに、今から泣いてどーすんのよっ!
そう思ってんのに、立っていれなくて。
俯いた地面を、透明の雫がポタポタと濡らしていく。
哲也を失ってしまうことなんて、出来るんだろうか?
わたしにそんな選択、堪えられるんだろうか?
ずっと哲也しかいなくて。
それなのにこの先哲也無しの人生なんて歩けるんだろうか…
「ゆきみちゃん、大丈夫?」
俯いているわたしに気づいて、ケンチがそう声をかけてくれて。
肩にふわっとケンチの手が置かれた。
膝をついてわたしの背中を優しくさすってくれるケンチ。
『ケンチ…』
「シッ!…哲也さん来たよ…」
そう言ってわたしの言葉を遮ったケンチは、今の今までわたしに触れていた手をサラリと外したんだ。
タカヒロとノリに続いて哲也が歩いてくると、ほんの少し青倉庫がざわついた。
「ゆきみ、すぐ戻るからな」
背中を向けているわたしにそう哲也が声をかけるから、無言で頷いて。
タカヒロ専用の送迎者のドアが閉まった音と同時に、タカヒロの足音が近づいて。