■ 束縛4


「ゆきみちゃん?」


俯いているわたしを気にかける優しいタカヒロの声。

そこに含まれているのは、罪悪感と多少の焦りと。


―――動揺…―――


タカヒロだって、相手が哲也だったら吃驚するに決まっている。

タカヒロにそんな想いをさせるノリの意図が、やっぱりわたしには分からないよ。


『哲也…呼んでくる…』


パタン…

VIP部屋を出て、わたしは青倉庫の外へ向かって歩き出した。

どうしてだろう?

妊娠が本当だったとしても、タカヒロとの子とも思えなくて。

確かにタカヒロとノリは相思相愛ってそう言われていたけど、あんなにも奈々を想うタカヒロが、隠れてノリを抱いていたとは思えなかった。

そう、思いたくなかった。

どれだけの覚悟で奈々を守っていたのか…

さっきの切ないタカヒロの瞳が無言で物語っているんじゃないかって思うんだ。

哲也は、ノリの妊娠が本当だったらどうするんだろう?

わたしを捨てる?

わたし、捨てられる?




『哲也、ノリが呼んでる』


花火大会を抜けた哲也は、結局朝まで帰って来ていないんじゃないかって。

あの日、直人に家まで送って貰ったわたしは奈々の呼び出しで目を覚ました。

それからずっと奈々の家にいたから、花火大会以来の哲也との再会で。

青倉庫にいるってことだけは直人から聞いていたから。

そこで何をしているとかそんなことは知りもしなくて。

VIPにいるもんだと思っていた哲也は、外にいたみたいで。

青倉庫に戻ってきたわたしと、擦れ違っていたよう。


「ゆきみ…」

『早く、ノリが呼んでるの…早く行ってあげて』


哲也の顔なんかまともに見ないで、わたしはその背中を押した。


「ゆきみ俺…大事な話がある」


ズキンッ…て胸が痛んだ。

知ってるの?

認めるの?

捨てるの?

わたしを捨てるの?


『先にノリの所に行って。それから…話、聞くから……タカヒロを解放して欲しいの』


強くわたしの腕を握る哲也の背中をもう一度押した。



- 160 -

prev / next

[TOP]