■ おいてきぼり6


聞こえてくるのは電波が届かないか電源が切られているって案内で。

やり場のない不安と恐怖で震えが止まらなくて…

泣きながらかけた電話に応えたのは、掠れたゆきみの声だった。


それから10分もしないでバイク音が聞こえてきた。

玄関の鍵開けなくちゃって思うのに身体が痛くて動けなくて…

でも鍵はかかってなかったみたいで、髪の毛ボサボサでスッピンのゆきみと直人があたしの部屋に飛び込んで来たんだ。


『奈々ッ、大丈夫?』


既に泣き腫らしたみたいな目のゆきみも、哲也くんと何かあったの?って思うけど、言葉も発っせなくて。


『直人、お湯とタオル…奈々勝手に捜すよ』


真っ赤な目を擦って廊下の左側にある洗面所に行った。

すぐにタオルで殴られた所をゆきみが拭いてくれて。

動けないあたしを直人が抱き上げてベッドに寝かせてくれた。


『奈々…ごめんね…』


あたしの手を握ってゆきみはそう言うけど、ゆきみが悪いことなんて何ひとつないのに。


気づいてあげられなくて…

そんな気持ちを込めてくれてるんだって思った。

直人、吃驚したよね?

見つめるあたしに気づいた直人は、優しい笑みを浮かべる。


「ずっといますから寝ていいですよ。ゆきみさんも寝て下さい。自分寝なくても平気なんで」


ゆきみがケンチじゃなくて直人を連れて来たのは正解だと思う。

もしケンチだったら、今頃親父を殺してるかもしれない…。

あんな親父死んで当然だけど、親父のせいでケンチの人生を壊すことはできない。

それにタカヒロが来なかったからなんて判明した日には、ケンチは全力であたしを曝うんじゃないかとも思う。

ケンチとタカヒロの喧嘩すら見たくないし。

だから、直人でよかった。

ゆきみに忠実な直人は、ゆきみの願いを聞き入れないわけないと思うし

何よりゆきみが悲しむことや、ゆきみの嫌がることは絶対にしない。



ーーーーでも分かってしまった。


ゆきみの腫れぼったい目と、直人を連れて来たってことはリンクされていて。

あたしの家の事情を知っているのは哲也くんで。

本来なら哲也くんとゆきみが来るはずなんじゃないかって。

だけど来たのは直人。

ゆきみもあたしと一緒で、おいてきぼりをくらったんだ……って。


タカヒロ、逢いたいよ…




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