■ おいてきぼり4


だからわたしはジッと花火を見ていて。

哲也の視線を強烈に感じているから、わざと哲也の方を向かない。

何を言おうとして、どうしようとしているのかなんて今の電話で一目瞭然だから。

せっかくの二人きりなのに、わたし達の邪魔をするのは誰?






「ゆきみ…すぐ戻るから、ここにいろ」


ほらね。

哲也はいつだってわたしよりノリを選ぶ。

きっと呼ばれた理由はノリだって、そんな所まで疑ってしまうわたし。

実際問題、ノリじゃなかったとしても、何も言わない哲也に、相手がノリだと勝手に思ってしまうわたし。

すごく胸が痛い…


『行かないでって言っても行くんでしょ…』


絶対に聞こえてるはずなのに、だから、哲也は立ち上がってわたしの肩に手を置くと、そのまま屈んでわたしにキスをした。


「絶対ぇ戻るから…」


何か言いたげな瞳は沈黙のまま、静かにわたしから遠ざかった。



まるでスタンバッていたかのように、哲也のいなくなったわたしの隣に、直人が座った。

本当にどこにいたんだろう?

これも哲也の命令?

自分がいなくなるかも?って。

わたしを一人にしないように?って。


「浴衣、すげぇ可愛い…」


クシャッて髪に触れる直人の手はとても温かい。

待ち望んでいたその言葉は、最愛の哲也じゃなくて、直人からの贈り物だった。


『…バカ…』


せっかくの花火が涙で滲んで見えた。



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