■ おいてきぼり3


「選んでいいよ」


隣で哲也がそう言った。

分かってないよ哲也…

わたしはどんな場所でも、お腹が空いていても、哲也と一緒なら構わないのに。

出店も哲也と二人で見て回りたかったんだよ。


「ゆきみ?」

『あ、うん…じゃあアンズとポテト』

「タコもよこせ」


そう思っていても言葉にできないわたしは、ただそれを受け取るだけで。

左側から哲也がタコ焼きをとって一口パクって食べた。


「ふあっち…」


ふあっち?

なに?

横を向くとほんのちょっとだけ涙目の哲也がいて、アツアツのタコを舌で転がすように食べてた。


『あはは、熱い?大丈夫?』


そう言いながらお茶を差し出すと、喉をゴクゴク鳴らしながら飲んで…

ちょっとドキドキする…

ドキドキするから哲也をジッと見つめて…


「まだ食うなよ、タコ」


かわされた。

悔しいな、わたしだけがドキドキしているなんて。


『哲也…』

「ん?」

『はい』


差し出したポテトを口に加えた瞬間、目の前がパアーって明るくなって花火が始まった。


『離れたくないよ哲也』


不意に頭に浮かんだノリのあの言葉。

ノリの言葉を聞いてしまったわたしは情緒不安定で、泣き虫で。

泣かれるのが嫌いな哲也は、震える声で小さく呟いたわたしに視線を移す。

一緒にいるのに、隣にいるのに、どうしてこんなにも不安になるんだろう…

気持ちだけおいてきぼりにされたみたいなのは、どうしてなんだろうか。

困惑した哲也がわたしの背中に腕を回そうとした瞬間……



哲也のジーンズのポケットが、ブー…ブー…って音を鳴らす。


やめて、でないで…

そんなこと、言えるわけもなく。


小さく舌打ちした哲也は、ゆっくりと携帯を耳に宛てた。


「…なんだよ」


不機嫌な哲也の声がわたしに届いた。


「あぁ…そうだよ…あ?…んだと?……あぁ……分かった、すぐ行く……」


パタンと携帯を閉じると、真っ直ぐにこっちを見る哲也。



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