■ おいてきぼり2
【side ゆきみ】
夜空に広がる花火を見ようと張りきって浴衣なんか着ちゃって。
だって初めて。
初めて哲也が「二人で行くか」って誘ってくれたから。
わたしはもうすっかりノリに言われた言葉を忘れていたんだ。
「行くぞ」
玄関で待ちくたびれたんだろう哲也はほんの少し不機嫌で、でもわたしを見てほんの一瞬目を大きく広げて口許が緩んだ気がした。
でも何も言ってくれなくて…
『哲也早い…』
どんどん進む哲也にそう叫んだ。
振り返ってわたしが到着するのを待って、隣に行くとそっと手を掴んでくれた。
『花火何時から?』
「20時」
『え?あと5分しかないじゃんっ!』
キョロキョロ辺りを見回すわたしは顔をしかめた。
どこをどう見たって人、人、人…で、花火すらどこで見たらいいか分からないほど人で溢れかえっている。
これじゃあ出店はおろか、花火も移動しながら見るはめになる…
「大丈夫だ、場所はもうとってある」
そう哲也が言った瞬間だった。
ハッピを着た数人の男子が、わたし達を囲んだ。
咄嗟にわたしは哲也の腕にしがみついた。
「おいっ、道開けろ!」
でもそれは、わたしと哲也を誘導する人達だったらしく、こんなに沢山の人がいるってゆうのに、怖面の顔の面子がそう怒鳴るだけでみんな道を開けて、わたしと哲也はその後をゆっくりと歩いた。
絶景スポットっていうのか、真っ正面の空に花火があがるらしい所まですんなり誘導されて。
ベンチに座ると又違う人達が駆け寄ってきて、焼きそばやらタコ焼きやら、かき氷やら、わたあめやらを沢山わたしに差し出している。