■ 寂しい赤い糸7
【side 奈々】
「どうした」
23時。
ギリギリまでケンチと直人とゆきみと哲也くんと青倉庫にいたあたしは、ケンチに送って貰って家に帰ってきた。
すぐにシャワーを浴びて出てくるとタカヒロがあたしの部屋にいた。
ゆきみが元気のないような気がしてどうにも引っ掛かっていて。
ボーッとそんな事を考えていたあたしに降りてきたタカヒロの優しい声。
あの日以降、二人きりというのにタカヒロはあたしに手を出さない。
別にイチャイチャしたいわけじゃない。
ただ、タカヒロはそういう気持ちにならないのかな?ってちょっとだけそう思っているだけ。
恋なんてタカヒロが始めてのあたしは
タカヒロとずっと一緒に居たいと思うし
一緒に居たら触れたい…ってそう思うんだ。
だから何もしてこないタカヒロを見ているとそれは、ノリの存在をあたしに埋めつけるかのよう?に思えてしまうんだ。
「奈々こっちこい」
濡れた髪のままのあたしに手を差し出すタカヒロ。
『な、に…』
「明日ノリに話す。これ以上気持ちをごまかすことはできねぇ…もうお前と離れたくねぇんだ…」
真剣な熱い声があたしに届いた。
目頭が熱くなって鼻の奥がツーンとして…
どうしようもなくこの人が愛おしい。
タカヒロの背中に腕を回すと、強く抱きしめ返された。
『待ってていいの?』
涙声でそう返すと、「あぁ」ってタカヒロの声が間近で聞こえた。
窓越しに見える空には、今のあたし達を照らしてくれる小さな星の輝きがあって。
明日あたしの所に来るタカヒロは、あたしだけのタカヒロになっているんだって、そう思うと嬉しくて…
今まで人を好きになったことのなかったあたしは、愛する人に愛されることがこんなにも嬉しいんだなんて初めて知ったんだ。
ゆきみと出会って、タカヒロを好きになったことは
あたしの財産だってそう思える。
「笑ってんなよ」
耳元で囁くタカヒロの声も優しくて。
あたしはギュッとタカヒロにしがみついた。
幸せな夜はどこまでも幸せで、ゆきみと哲也くんにも同じ想いを抱えていて欲しいと、思わずにはいられない。
―――――――――――でも。
もう離れたくない…
側にいろ…
そうあたしに言ったタカヒロは
――――――翌日、あたしの家には来なかった。