■ 寂しい赤い糸5


タカヒロとの恋だって、ハッキリしてないのに。

タカヒロはどういうつもりなんだろう?

ノリとだって別れてないはずなのに奈々にまで…

わたしも哲也も人のこと言えた義理じゃないけど…


『痛かった?』

『少しね…』

『ケンチに海って言ってくるっ!』


小走りでバーに向かうケンチの後を追いかける奈々。

わたしの後ろには直人がいて…

直人もこれを初めて知ったみたい。


「ハハッ…勝てねぇな」


どうして直人はわたしなの?

どうしてわたしは直人じゃないんだろう?

どうしてわたしは哲也だけなんだろう?

どうして哲也は、ノリなんだろうか…


少しも絡み合わない赤い糸が寂しそうに揺れていて、どうすることもできない。




わたしは限界といえば限界で、そうじゃないといえばそうじゃなくって…

哲也さえ見なければ。

哲也にさえ会わなければ。

そう思ってるからだろうか?


「ゆきみ」


名前を呼ばれてビクッと身体が反応する。

地下に向かう入口に哲也が立っていて、わたしに視線を向けている。


「奈々ちゃんあいつ借りる」


丁寧に奈々に了解まで貰っていて。

動かないわたしの所まで歩いてきて、わたしの腕を取るとVIPへ続く道を歩き出す。


ねぇ、哲也…

また、わたしとノリを重ねるの?

ノリが帰っちゃったからわたしで済ますの?


『なに?』


VIPに入ったわたしの言葉に何も返してこない哲也。

カチッて音の後に煙草の香りがして


「明日の花火大会、二人で行くか」

『え?』


思いがけない哲也の言葉に、わたしは俯いていた顔を上げた。

毎年ある地元の花火大会はいつもいつもタカヒロとノリも一緒で。

いつか二人で行きたいなんて密かに思っていたの!

だから嬉しくて…


『うんっ、行きたい!二人で、行きたいっ!』


ついそう言ってしまった。

でもそれはわたしの正直な気持ちで。



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