■ 寂しい赤い糸4


『ゆきみ?どうかした?ノリになんか言われた?』


その場から動き出せないわたしを迎えに来た奈々は、心配顔でわたしを見ている。

ハッとした!

奈々には絶対言えやしない!

相手が哲也なのかタカヒロなのか分かっていないけど、わたしはこの期に及んでノリの相手が哲也以外であって欲しいと思ってしまうなんて、なんて最低なんだろう。

タカヒロは親友の好きな人なのに…―――


奈々にわたしと同じ傷みをあじあわせたらいけない。




『あ、うん何でもない。わたしお腹空いちゃった、下行かない?』


バーを指差してそう笑った。


「ゆきみさん?どうかしました?」


隠しても隠してもわたしの嘘を見抜く直人。

わたしが異変を隠しきれたことなんて、ただの一度もない。

心配そうな瞳を見せる直人と視線を合わせないように


『どうもしないよ』


そう直人に言って、わたしは奈々の腕に後ろから抱き着いた。


『ねっ、ケンチがプール行こうって言うんだけど、どーする?』


奈々に話題を逸らされてホッとしたけど、わたしは苦笑いで首を左右に振った。

羽織っている黒いカーディガンを脱いで左腕を奈々に見せる。

真っ赤なハートの下に小さく刻まれた”TETSUYA”の文字。

一馬の所に行っている時に、リカ先輩の知り合いに入れて貰った哲也への想いのタトゥー。

奈々は吃驚した顔で目を大きく見開いてわたしと腕を交互に見た。


『ごめんね、海なら…』

『い、いつやったの?』

『一馬んとこ行ってる間』


そう笑ったら泣きそうな奈々。

そんな奈々を、わたしは強いと思っている。

わたしが奈々の立場だったら、親父に殴られてる時点でくじけるのに。



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