■ 執着の理由1
声に振り返ると奈々がいて、すぐにわたしの隣に座った。
「タカヒロは?」
『角の部屋にいるよ』
奈々が長い廊下を指差してそう言うと、反対側のわたしの隣にいた哲也が椅子から立ち上がってわたしの髪に触れた。
「奈々ちゃんこいつ頼むわ」
『あ、うん』
しばらく哲也の後ろ姿を見送ったわたし達は、すぐにお互い目を合わせて笑った。
『ゆきみ、ごめんね』
先に口を開いたのは奈々で。
『わたしこそ、ごめん』
そう言うと又、お互い笑い合った。
『タカヒロがあたしを守ってくれてる事に甘えてね、ノリの事まで考えてなくて…結果哲也くんがノリの面倒見て…ゆきみの気持ちまで見えてなかったあたし…』
『奈々違う…わたしがノリに執着してるだけなの…』
そう言った声は少しだけ震えていて、今更ながら泣き出しそうな自分がいる。
カチャッとお箸を置いて、わたしは奈々をしっかりと見据えた。
『ノリが今みたいになったのにはね、ちゃんと理由があるの…』
そう言った声はやっぱり自分でも驚くくらいに、震えていて。
奈々はそんなわたしを見つめて、小さく首を傾げた。
―――それは、わたしと奈々が出会う少し前のお話。