■ お前じゃなきゃ…5
【side ゆきみ】
パチっ…
目を開けると見たことのない天井。
「はよ」
足元から聞こえた低い声に視線を飛ばすと、わたしの哲也がこっちを見ていた。
『哲也…ここ』
起き上がるわたしをそっと支えてくれて。
「奈々ちゃんのばあちゃん家」
そう言われて、一気に記憶がフラッシュバックしてきた。
『奈々は?』
「タカヒロが一緒」
『そっか。直人は?』
そう聞いたら哲也の強い視線が飛んできた。
哲也がわたしに何を言おうとしているのかが分かる。
わたしは哲也を見ることが出来なくて俯いた。
「お前…」
『ズルイよ哲也…』
「え?」
『ノリとわたしと、どっちが大事なの?』
呟いた声は小さかったけど哲也にはしっかりと聞こえてたみたいで、そっとわたしから目を逸らした。
それがわたしよりノリの方が大事だって言われた気がして…
胸が痛い。
聞かなきゃよかったっていつも思うのに。
ノリには勝てないんだって。
『ごめん何でもない…』
「ゆきみのが大事」
『………』
「アキラが死んだ時に誓ったんだ。アキラが誰より大事にしてたノリちゃんを絶対に守ってく…って。俺ら守って事故ったアキラに出来る唯一の償いだと思ってる…だから、ノリちゃんをほっとくことはできねぇー…」
チームoneの八代目総長は、本来ならアキラに渡るはずだったもの。
ノリの双子の兄貴のアキラ。
でも一年前にバイク事故でこの世を去った。
「ゆきみを不安にさせてんのは分かってた。ゆきみなら離れていかねぇー…って甘えてんのも分かってる。ずっと側にいる直人にもってかれるんじゃねぇかって焦って苛ついてんのもよく分かってる…」
そこまで言うと、緊張した面持ちで哲也は小さく息を吐き出した。
そうしてゆっくりと顔を上げてわたしを見つめた。
「お前じゃなきゃダメだ。俺はお前がいなきゃ意味がねぇ…」
胡座をかいたままわたしにそう言う哲也の声はほんの少し震えていた…
ノリよりもわたしが大事だって言ってくれる哲也を信じたいと思う。
惚れた弱みと言われたらそれまでだけど。
そんな意味を込めて小さく頷いたら、哲也がホッとしたように笑ったんだ。