■ 離れ離れ8


同時に鳴るのはわたしの携帯で…

ビクッとするわたしは画面を開くことを躊躇う。

この着信が直人だったら?

直人の声を聞いてしまったら、わたしは戻らずにはいられなくて…

でも、開いた画面は思いも寄らぬ、奈々の名前が動いていた。


『うそっ、奈々?奈々っ?』

「……ゆきみッ……」


くぐもった奈々の声は怯えていて、様子がおかしい。


『奈々どこにいるの?』

「福島…おばあちゃん家があるの…ゆきみ、今変な人達に…」


小さな声は身を潜めているからか、聞こえ辛くて…

でも奈々の言いたいことが簡単に分かった。

それはよく、哲也をおびき出そうとした奴等から、必死に逃げていたわたし自身と重なるものがあったから。


『奈々大丈夫だよ!捕まったらうちのチームとタカヒロの名前出して!!タカヒロの私物かなんか持ってない?もってたらそれ見せて!うちのチームには地方にも何個か配下がいるから!きっと今頃必死で奈々を捜しているはず。福島のどこっ?!』


結局わたし達は一人じゃいられなくて…

誰かを頼る事しか出来ないんだよ。


「ゆきみ…ごめんね……あたし…タカヒロが好き…好きなの…」


涙声の奈々の告白は、わたしの想いをも奮い立たせる。


『奈々っ、絶対間に合わせるから!わたしがタカヒロを連れて行くからっ!!』


携帯片手にわたしは隠し持っていた哲也の上着を羽織って外に飛び出した。


『直人ッ!』


バイクの側で煙草を吸っていた直人は吃驚してキョトンとした顔で、でもすぐにわたしを受け入れるように近寄ってそっと抱き寄せた。


「無事で…心配しました」


泣いてるみたいな声が耳に響いた。


『ごめん、時間ないの!今すぐ福島に向かって、そこに奈々がいるから!それからタカヒロに連絡してっ!奈々にもしものことがあったらわたしっ…』


それこそ、自分を呪うよ。


「はい、すぐに」


直人の頼りがいのある声に泣きそうになったんだ。

奈々待っていてね…



- 120 -

prev / next

[TOP]