■ 決意6


『哲也…大好き』

「ゆきみ…」

『ん』

「お前」

『待ってるから』

「………」

『てっちゃん、好き…』

「………」



せめて一度でいいからわたしを「好き」と言って欲しかったな。

そうしたらきっと何もかもを乗り越えていけるんだって思った。





―――――――――…




『な〜おとっ!』


バイクをいじってる直人をギュッて後ろから抱きしめた。


「え、ゆきみさん?」


直立不動で手をプランとさせてる直人は軽く振り返って…


『直人お願いがあるの』

「…自分で出来るなら」


そう言う直人は腰に回されたわたしの手に自分の手を重ねて。

わたしはこの温もりを忘れちゃいけない。


「ゆきみさん?」


わたしの異変にすぐに気づく、わたしの直人。


『わたしを曝(さら)って』


直人がわたしの言うことを聞かなかったことなんてないって分かっているから。

哲也にやられるの覚悟でわたしを守るって言ってくれた直人だから。

わたしが哲也を想う気持ちと同じ想いを抱えている直人だから。

わたしの泣き顔が見れない優しい直人だから。


『一馬の所へ届けて』


振り返った直人はただ困惑の瞳しか見せない。


「え…」

『奈々がいなくなったのはわたしのせいだから。わたしが哲也を縛ってるから、哲也を想って泣いたりしたから…奈々を傷つけた。もうoneにはいられない』

「…何言ってんすか?」


動揺する直人を正面から抱きしめるわたしは、そうとうズルイ奴。

直人がわたしのいうことをきくように仕向けているだけ。

直人への気持ちはないのに。


『直人にしか出来ない事だよ』

「無理っすよ俺…」


震えた直人の声。

その瞳は悲しみで溢れている。


『少しこのままでいて』


何も言わせたくないんだ。

直人の口からもう悲しい言葉を聞きたくなくて…

ギュってわたしの背中に回された直人の腕に、痛いくらい力が込められる。

直人の温もりを身体いっぱいに刻み付ける。




もう、決めたんだ。

oneには戻らない…

戻れない…




- 112 -

prev / next

[TOP]