■ 決意4


『哲也離して…』

「ダメだ」


意味わかんない!

いつもわたしを置いてノリを選ぶくせに、こんな時だけわたしを縛るなんて…


『わたし平気だから。な、な、直人の側にいるから』


そう言うわたしを哲也はジッと見ていて、まだわたしを離そうとしない。

疑っているに違いない。


「ゆきみ、心当たりは?」


今だケンチを踏み潰したままタカヒロがそう聞いた。

こんな時、どこに行ったか予想がつく関係なら、奈々はわたしの前から消えなかったんじゃないかとすら思えた。

左右に小さく首を振るわたしに、更に強くケンチを踏み潰すタカヒロ。


「哲也、見つけだせ」

「あぁ」

「タカヒロさん俺も、行かせて下さい」


俯いたままケンチがそう叫んで。

ようやくタカヒロの足がケンチの背中から外れた。

同時に胸倉を掴みあげられて鼻と鼻がくっつくんじゃないかって程顔を寄せる。


「てめぇの処分は後だ。傷一つあったらただじゃおかねぇぞ、はよ行けや!」


ビビり上がるド迫力でタカヒロが怒鳴ると、ケンチはちょっと逃げるみたいにVIPから出て行った。

声を荒げたせいで肩を揺らして呼吸をするタカヒロに、愛がないなんて言えやしない。


「タカヒロ、先に行ってくれ。ゆきみに話しがある」


そう言った哲也はまだわたしを離さなくて、無言でタカヒロが出て行った。


「ゆきみ、何考えてる?」


まるでお見通しみたいな哲也の視線。


『何って、なに?』

「惚けんな、言えよ」


そう睨みながらも哲也の手はわたしの頬を撫でている。


『なんも…』


目を逸らしたわたしに哲也の左手が触れて…

向きを変えられたわたしの顔に、哲也のキスが落ちてくる…



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